今回は、サイフォンのための器のお話です。
皆さん、こんにちは。THE SYPHONIST の中山です。
嗜好品の世界で言えば、ワインやお酒にお茶でもなんでも、グラスや器によって風味の感じ方が変わるというのは広く知られていると思います。材質や触感、厚みや形状、大きさなど実に様々。コーヒーにおいてもそれは同じです。それぞれには意味があり、一杯の美味しさをより楽しむための要素でもあります。しかしそれは、一般の方にとっても難しい要素でもあります。
バリスタやサイフォニストなど、コーヒープロフェッショナルの競技会でも、自分が提供するコーヒーの素晴らしさをどんな風に伝え共感してもらうか、そのための器選びも選手たちの個性や想いがひかります。
サイフォンのための器
何年も何年も前から、サイフォンのための器づくりを試みてきました。いろいろな選択肢を試しながら、過去の経験を踏まえ、いつかサイフォンコーヒーがこれで飲むと最高に美味しい!なんて感じられる器ができないか!と夢見てきました。
サイフォンというのは提供温度が高く、揮発力もあったり、酸味やフレーバーが際立つ特徴があります。熱いから冷めるのを待って飲まれてしまいがちなところとか、サイフォンならではの「飲まれ方」、飲み方にはそれぞれいろんな事情があるもので。
サイフォンという市場はコーヒーの中でも狭く、それ故、サイフォンコーヒーに着目した器は世の中で見ることはありません。サイフォンの競技会で、私は出場するたびに器を変えていたのは、そのときどきに提供するコーヒーの魅力がより伝わりやすい器を選択していたからです。しかしながら、世の中にあるものの中から選んでくるものであって、なかなか納得のいく器に出会うというのは奇跡に近いようなことでした。
陶芸家 樽田裕史氏との出会い
現在の勤め先「那古野茶房花千花(名古屋市西区)」で開催された作家さんとのコラボ企画「ギャラリー茶房」で出会ったのが、陶芸家 樽田裕史さん(愛知県瀬戸市)です。樽田さんの作品は、蛍手という技法で、光が差し込むような線状の透かしが醸し出す清らかで柔らかい作風が印象的です。樽田さんとお会いするのはそのギャラリー茶房の場が初めてでしたが、作品にはご縁がありました。
私が最後に出場したサイフォンの世界大会(2018年)、その決勝の舞台で使いたいと思っていたのが樽田さんの器でした。ネットで見かけ、大会で提供するブレンドコーヒーのための器として必要な数を探したのですが同じものの数が揃えられず、大会で使うのは諦めた経緯がありました。そんな樽田さんに、転職したお茶屋で偶然出会えたのは、偶然というより奇跡のようでした。樽田さんにそのお話をして、まだ実現できていないサイフォンのための器作りが始まったのです。
たくさんの想いをカタチに・・・
せっかくゼロから作るなら、すべての想いを込めたオリジナルの器を作ろう!そんな想いでお力を貸してくださいました。
(1)材質
これまでサイフォンコーヒーをいろいろな器で飲んできて最も評価したのは磁器でした。サイフォンのきれいなコーヒー感を損なわいのがその理由でした。
(2)厚み
薄いことで、飲んだ時に主役のコーヒーとお口の間にまるで存在していないかのような、印象を邪魔しない存在感。そして、提供温度80度のサイフォンは、熱くて飲めないと冷めるのを待って飲まれることが多いものです。サイフォンコーヒーは提供から7.8分後の65度前後から味わいのバランスが良くなります。厚みが薄いことで、その温度帯により早く近づき、長い時間放置しなくてもサイフォンを美味しく召し上がることができるのも厚みを薄くした理由です。
(3)熱くて持てない(笑)
厚みにもよりますが、取っ手もなく、手で持てば熱い器にしました。私はそれが重要だと思っています。指でつまむのではなく、両手に乗せて(手を添えて)飲む。熱くて持ちにくいうちは立ち登る香りを楽しむ時間、何とか持っていられるようになっきたころサイフォンが一番美味しく感じられる時間、手でそれを直に感じることで香りの時間と味わいにフォーカスしていく時間を感じてもらえる器にしたかったのです。摘んではわからない繊細な変化を。そして、両手で味わうことで感謝の想いが現れる。。。なんて。
(4)光と影と景色
サイフォンの熱源のひとつに光サイフォンがあります。光っている時と消灯したときの光と影のコントラストは光サイフォン抽出の風情です。「サイフォンは地球抽出だ!」と大会で宣言(2015年)した私にとっては、この器にはサイフォンと親和性のある景色を宿すことも欠かせないポイントでした。
立ち登る湯気や香りと温める炎
そよ風や水の流れとゆらめく草木
木漏れ日のようなコントラスト
サイフォニストの舞い踊るような所作
この器には、多様な景色がある
(5)命名"彩めきの器"
味わいや想い、背景や景色、それを見事にカタチにしてくれた樽田さん。樽田さんの数ある作品デザインの中でも、サイフォンのためのオリジナルデザインが完成させてくださいました。
風味の印象を大きく左右する口元のわずかなひらき、蛍手のダイナミックなゆらぎと切り込みの幅、サイフォンに適した容量、コーヒーを淹れた時に最も美しさを感じる彫り込みの線の数など。
サンプルを経て完成品を受け取ったときに感激したのは他でもありません。このオリジナルのデザインモチーフに"彩めき(あやめき)"と名づけさせていただき"彩めきの器"がここに完成したのです。
(6)多様性のある器
サイフォンでお茶や出汁をとることもある私。
この器は、そんなサイフォンの多様性と未来を見据えて、コーヒーだけではなく、お茶や抹茶、お吸いものや小料理を盛り付けても彩めく器にしてみたのです。その様子はまた今度投稿します。。。そういった意味でも、私はこの器を「珈茶碗(こうちゃわん)」と呼んでいます。
風味と景色に趣いた 香り彩る珈茶碗 "彩めきの器"
正直、この器は、サイフォニスト10周年を迎えた自分自身への贈り物なんです。これまでの経験と想いをもとに、いつものように淹れたサイフォンコーヒーがより美味しく味わえるカタチとなって自分に返ってくる、そういう贈り物。でも、皆様からのリクエストによっては、販売を検討してみてもいいかも。。。
淹れる技術だけではなく、それを味わう器に香りと景色を想像するようになってしまったら、あなたはもう " サイフォニスト " なのかもしれません。ご自愛ください。
それではまた次回も、どうかご贔屓に!
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
THE SYPHONIST
中山
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